大切な置き時計
伯母から譲り受けた、大切な置き時計があります。
長い間、伯母の暮らしの中で、静かに時を刻んできた時計です。
気がつくと時計が止まっている…
そんなことが何度もありました。
電池を替えても、数日するとまた止まってしまう…
「もう動かないのかな…」
「動いていないけれど、飾っておくだけでもいいかな…」
そんな気持ちもありました。
修理代もきっとかかるだろうし、そのお金があれば新しい素敵な置き時計が買えるかもしれない。
でも、私は新しい置き時計が欲しいわけではありません。
大好きだった伯母との思い出が詰まった、この置き時計を、これからもそばに置いておきたいのです。
思い出の詰まった大切なものを、大事に、愛着を持って使う。
使うほどに味が出てくる、そんなものが好きです。
その方が、気持ちも落ち着くのです。
なぜだか、新しいものが少し苦手でもあります。
真新しいものを見ると、ちょっと気恥ずかしい気持ちになります。
どんな時計屋さんでも直せるわけではないだろうな。
熟練の職人さんがいないと無理かもしれない。
そう思いながら、探してみました。
そして本当に偶然、すぐ近くに小さな小さな時計屋さんを見つけたのです。
線路沿いの、こんなところにお店があったの?と思うような場所です。
「本当にやっているのかな…」と半信半疑で、小さな扉を開けました。
中に入ると、少し埃っぽい店内に、優しそうな年配の職人さんが二人。
掛け時計や置き時計、かなり古そうなものから大きな振り子時計まで、所狭しと並んでいます。
まるで時が止まったような、不思議な空間。
ちょっと異次元に迷い込んだような、そんな感覚でした。
「よくこのお店を見つけたな」そんな気持ちにもなりました。
少しだけ、“導かれている”ような気がしたのです。
優しい笑顔で迎えてくれた職人さんは
私が持っていった置き時計を見ると、少し困った表情で
「うーん…直せるか分からないけど…やってみますね…」
そう言って、預かってくれました。
「直るといいな…」と、心の中で思いながらお願いしました。
それから一か月後、連絡がありました。
受け取りに行くと、止まっていたはずの針が、静かに動いていました。
「うわ…動いている…」
その瞬間の感激は、今でもはっきり覚えています。
とにかく、とにかく嬉しかったのです。
「もうこの置き時計の修理は勘弁してほしいよ」
おじさんは苦笑い。
よほど大変だったのだと思います。
大変だった修理の工程を丁寧に教えてくださり
「ここが一番大変だったんだよ」と話してくれるその姿から
一生懸命直してくださった思いが伝わってきました。
こうして、伯母が大切にしていた置き時計が、また戻ってきてくれました。
今も変わらず、壊れかけた古いローランドの電子ピアノの上に置いてあります。
私にとっては、かけがえのない、大切なぬくもりを感じるもの。
小さな傷や色あせも味となって、たったひとつだけの置き時計。
この置き時計と一緒にいられる時間は、伯母と私をつないでくれる時間でもあります。
今もその置き時計は静かに時を刻んでくれています。
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